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  • Taka Muraji 村治孝浩

日系企業・人財管理の「危ない」理由 (2) 管理職がむっつりしていると会社が損をする~笑わない日本人管理職の功罪

日本人の管理職は、笑わない・・・というイメージが、日系企業で働くアメリカ人の間ではごく一般的です。日本では仕事はまじめに取り組むもの、仕事中は「ちゃらちゃらしない」というのは、道徳的にごく当たり前のことといえるでしょう。さらに、ポジションが上がるにつれて、むやみやたらと相好を崩すと、威厳に関わる、という意識もある上、見知らぬ人間に微笑みかける文化がない日本人は人前で笑みを漏らすことは滅多にありません。一方これがアメリカでは大きな失点になることが往々にしてあるのです。なぜかと言うと、アメリカでは「スマイル」はビジネスを成功させる上での大きな武器であり、また、その人の人柄を表す最もわかりやすい特徴でもあるからです。


ビジネスに深刻な影響を及ぼすフレンドリネス

アメリカでは「インテグリティ=integrity」という言葉が良く使われますが、これは、日本語にそのまま訳せば「誠実な」とか「高潔な」ということを意味します。ただ、それだけではこの言葉の真意はうまく伝わりません。もう少しアメリカ的なコンテキストを加えると、非常に「フレンドリー」で「誰にでも分け隔てなく話をする」というニュアンスが加わるとでも言えば良いでしょうか。つまり、アメリカで言う「誠実」かつ「高潔」な人柄の持ち主、というのは、身分や地位の高低に関わらず、「誰にでも気さくに話をし」、そして「フランクに付き合う人物」ということになります。ここには、アメリカならではの「平等」を重視する姿勢が反映されています。


一方、儒教文化の影響が色濃い日本の文化では、身分の高低を重んじ、それに応じて人とお付き合いをし、場と人と状況に応じて適切な態度をとることが「礼儀作法」とされています。日本ではTPOをわきまえる姿勢はごく当たり前のマナーですが、この作法がアメリカでは人間関係において大きな障害となることもあり得るのです。日本からアメリカに赴任したエグゼクティブは、こういった文化的なコンテキストが及ぼす自分自身への行動が、意外なところでアメリカ人の心理にインパクトを与えていることにも注意を払う必要があります。しかも、組織ではトップの存在、行動や言動が全体に大きな影響を及ぼします。アメリカのようにトップダウン型マネジメントが定着している社会では、私たちの想像以上にCEOや社長の存在そのものが現地社員の士気に影響を与える可能性を考慮しておかなければなりません。

オフィスでは名前を覚えて、気さくに振舞う

さて、このような文化特性から、日本のマネージャーは、特に上位に立つ人ほど日本とは違った部下への気配りが必要です。具体的には、まず出社したら、必ず近くのオフィスの人間には声をかける、廊下ですれ違った社員にはランクに関係なく気軽に声をかけて挨拶をする、といったことが不可欠です。また、「名前を覚える」ことが日本以上に、良好な人間関係を築くための大切なテクニックとなるのもアメリカです。アメリカの企業で働いていると、上位の人間が、自分の部下の名前をランクに関係なく非常に良く覚えていることに驚かされることがあります。これは、名前を呼びつつ相手をきちんと認識することが、コミュニケーションにおいて非常に重要であり、特に人心掌握のためにはこのテクニックがことのほか重要であることをエグゼクティブは良く心得ているからです。


歩き回ってオフィスと従業員を知る

もうひとつ大切なテクニックは、“management by walk”と呼ばれる手法です。これは、時には自分のオフィスから出て、各部署を気軽に回って社員に声をかけるというものです。これは、ただでさえ上位管理職と話す機会のない一般従業員にとっては、コミュニケーションのいい機会となるばかりではなく、より親近感を抱くチャンスを得ることができる優れた方法です。ただし、監視していると間違われないように、あくまでもフレンドリーに「Hi, how’s it going? Is everything all right?」などと、声をかけながら様子を見て回ることが大切です。アメリカのエグゼクティブは、こうして、自分の足でオフィスを時々歩き回り、部下や社員がどのように仕事をしているか、また社内の雰囲気がどうかを自分自身で感じ、そしてチェックしています。これは、日本人エグゼクティブの方にもぜひ実行していただきたい方法のひとつです。


社員を積極的に外部の人間に紹介しよう

また、最後にもうひとつのテクニックを。それは、外部からお客さんが見えたときに、社員を効果的に紹介する方法です。社内をお客さんを連れて歩く場合、キーになる社員を紹介することによって、社員全員の士気を高めることが出来ます。もちろん社員全員を紹介することなど、不可能かつ不必要ですから、仕事の要となっているような人間、そして目だって活躍しているような人間に焦点をあて、その場で「これはわが社のホープです」、「○○担当で御社のプロジェクトを担当してくれている○○です」などと言って、お客さんに紹介するのです。アメリカ人の有能な社員たちは、こういったエグゼクティブの行動を自分たちを積極的に評価していると捉え、いずれは自分もあのように紹介される社員になろう、とより高いゴールを定めて働くものです。


アメリカ人社員を活かすも殺すも、文化を心得て、行動する日本人社員の行動ひとつにかかっているといっても言い過ぎではありません。一度社内で、日本人社員の皆さんの行動を、チェックしてご覧になってはいかがでしょうか?

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