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  • Taka Muraji 村治孝浩

歴史が作ったアメリカのビジネス観(1)サンクスギビング~サバイバルの歴史が生み出したビジネス観

アメリカは、夏休みを終えて、一気にサンクスギビングホリデーにむかってカレンダーが進みつつあります

さて、このサンクスギビングは、新大陸に降り立った建国の祖と呼ばれるピルグリムたちが、最初の1年目の生存を祝ったディナーが今に受け継がれたものです。アメリカでは、宗教的なクリスマスよりも、より広く祝われる非宗教的な季節の節目でもあり、ほとんどの家族が七面鳥をグリルし、知人、友人とともにディナーを共にする日。アメリカ人が、アメリカ人として今まで生き延びてきたことを感謝し、そして、その歴史を振り返る人も言えるでしょう。この日を境に、アメリカはニューイヤーズデイまで、長いホリデーシーズンに突入します。さて、今回は、このサンクスギビングが意外な形でアメリカのビジネスに影響を及ぼしている、その歴史的な背景を少し覗いてみましょう。

建国の祖、ピルグリム大西洋を渡る

アメリカの建国の祖といわれるピルグリム(清教徒)たちが、アメリカの地にたどり着いたのは1620年のこと。本国イギリスで厳しい迫害を受けていた清教徒の一団は、祖国を逃れ、自分たちの手による神の国を作ろうとメイフラワー号で新大陸を目指しました。その数、乗組員を含めて総勢121名。66日にわたる航海を経て、11月11日、プロビンスタウン近くに碇を下ろしました。

12月、上陸。時は既に冬。彼らの栄養状態は極端に悪く、ほとんどが脚気を患っていたといいます。その上に襲い来る厳しい冬。既に栄養状態は極端に悪いうえに、ボストンエリアは日本の青森よりも北。厳寒の冬。飢え。そして病気に多くの人間が倒れ、最初の冬を越せたのは僅か50名弱でした。

集団として存亡の危機を救ったのは、この地に住んでいたワンパグアノ族の知恵だったといえるでしょう。かつては奴隷として連れ去られたものの、教育を受けた後、アメリカに戻ったワンパグアノ族のスクワントが間に立ち、窮乏するピルグリムファザーズが生き残るための知恵を与えました。

最初のサンクスギビングは先住民族と共に

ようやく越えた最初の冬。1621年、11月27日。この日に最初の1年を無事に乗り越えることができた生存者たちが、ワンパグアノ族を招きいて感謝のディナーを開いたのが、今のサンクスギビングデー、つまり感謝祭の始まりです。この時、野生の七面鳥や自生していたとうもろこし、タロと呼ばれる芋、そしてパンプキン、クランベリーのソースなどがテーブルには揃えられ、3日に渡って宴が続いたといいます。これらの素材は、全てワンパグアノ族から伝授されたサバイバルのための食料だったというわです。

さて、こういった状況を経て生存に命をかけた最初のピルグリムファザーズたちにとって、日々が生きることとの戦いでした。本国イギリスとはまったく異なる気候。自然環境。憧れた神の地、新大陸は新参者に甘い夢を見させてくれる夢の土地ではなく、厳しい試練の地でした。家族や仲間たちは日に日にやせ細り、病魔に襲われ、そして命を落として行きます。そんな中で、新天地で神の国を作ろうとしたピルグリムたちにとって、本国のイギリスへ舞い戻るというのは、あり得ない選択でもありました。

コロニーを消滅させるわけには決して行かない。ここに、彼らのありとあらゆる手段、知恵、そして技術の限りを尽くした生存の戦いが始まったのです。


トライアル&エラーを生み出した苛酷な自然環境

さて、想像を超える過酷な自然環境の元では、生存のための全てが試行錯誤でした。農耕、牧畜、日々に必要なモノづくり・・・。本国のイギリスで培った技術や器具は、この荒涼とした大地では、何の役にも立たず彼らは途方にくれます。一方で、ネイティブアメリカンのアドバイスがあったとしても、それをコミュニティの生死をかけて、持続可能な技術へと変えていかなければなりません。

そこで、彼らにとってもっとも大切なことは、このまったく新しい道の土地で役に立つ技術を開発し、試すことでした。一方、迫り来る冬との戦いは時間との戦いでもあります。開発に時間をかけていては、コロニー全体が死のふちをさまようことになりかねません。

そこで、開発に時間をかけず、いち早く役に立つものを作ることが何より重要なことになりました。いち早く、アイディアを考え出す。そして、試す。次に、役に立たなければ部分修正を施し、再び使う。このメンタリティが、今のアメリカのマニュファクチャリングを代表するキーワード、Trial & Error (試行錯誤)を生み出していくことになるのです。

この時期、非常に大切だった即効性と有用性が、この方法論に結実することになります。

今でも、アメリカの市場は、新しいもの、そして独創性のあるものを重要視します。また、新製品に対して「完全」を求める人はごく稀です。つまり、欠陥があれば次の新しいバージョンをすぐに出し、次のよりよいものへと発展させていく。プロセスを重視しながら徹底的に時間をかけて「完全」を追求した上で市場へ送り出す日本型とは、180度異なるメンタリティ。それは、こういった彼らの建国に由来する「サバイバル」の歴史が生み出したものとも言えるでしょう。(次回へつづく)


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